飲みたいビールから、意味を共有するビールへ

サンクトガーレン、台風15号の落下梨を使ったビール「和梨のヴァイツェン」 10月4日より発売

ビールの醸造途中で果物を漬け込んで作る製法があるそうで、
たぶん、このビールもそうなのだろうと思う。
ただ、感心したのは、材料の提示の仕方だ。

助け合いを無意識に連記させる

なんというか、失礼を承知の上で書くと、
こういう加工用に使う梨は、なんだっていい。
味さえしっかりしていれば、見てくれはどうだっていいからだ。

そして、落下梨は表面に少し傷がついているぐらいで、
味も変わらないし、(傷さえ気にしなければ)直接食べても問題はない。

これは憶測なのだけれども、
このようなビールを作るときに普段使っている梨も、
台風以外の要因で落下したものや、
収穫の途中や運送途中に傷がついた梨を使用していたのだろうと考えている。
そうでなくとも、店に並べられることがない
規格外品を使用していて、
語弊のある書き方をすると“特別なことではない”
とも見て取れる。

だが、今年の台風で大きな被害を受けたことは周知のことだし、
なによりも、このビールを通じて
梨も被害を受けているというあたりまえのことに
気付かされることにもなる。

そのうえで、ビールの材料に使っているとの表記で、
台風で被害を受けた農家に対して、
少しでもできることをやろうという気持ちにさせて、
それで、呑むというだけで、
さも、災害復興の一助になってるような気にさせてくれる。

好奇心に対して、最後のひと押しをする

そして、ビール自体の話として、
このような香り付けをされたビールは
一般市場ではなかなか受け入れられない。

クラフトビールの店が増えてきていて、
色んな種類のビールも出回っている、
という事実もあるのだが、
まだまだ裾野が広がりきっているとは言い難い、
と、個人的には思っている。

お酒を呑むのが好きな人間は、
新しいお酒を難なく受け入れる人もいれば、
なかなか手を出そうとしない人もいる。
その中間にいる、機会があれば飲んでみよう、
という層はもっと多くいる。

このビールの訴求力

今回のこの商品は、そのような層に対して、
かなり強いアプローチができるのではないかと考えている。

新しいビールが出た。
なしの風味のビールだ。
サンクトガーレンのビールだって。

この情報だけでは、商品としては埋もれてしまう。

しかし、落下梨を使ったビールとなると、
選択肢としての優先度がぐっと上がる。

そして飲んでみて、
飲み慣れた一番搾りやモルツとはちがうものの、
これはこれでありなんじゃないかと思ってもらえれば
しめたものだろう。

台風被害を受けた梨農家を救うことができ、
それと同時にクラフトビール市場の裾野を
少しは広げることができる。

商品というよりは、商品がはらんでいる空気が
観察しがいのあるものなのではないかと思った。